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アントン・ナヌートの幻想交響曲

オーソドックスな名演奏(戻る


これまでもケーゲルやバルビローリなどの個性的な幻想交響曲を取り上げてきましたが、このナヌートの幻想交響曲はオーソドックスな名演奏だと思います。 今回、比較視聴用としてカラヤン/BPOの演奏(1964年録音)も聴いてみましたが、けっしてこれに引けを取るような演奏ではありませんでした。 曲の解釈については、カラヤンとナヌートとも大差なく、奇をてらったところのない堅実な演奏です。 しかしナヌートの演奏による終楽章、とくにコーダのあたり、ゆったりと余裕を持った堂々とした演奏などカラヤン以上の帝王らしさをも感じさせます。 またひとつここでナヌートの偉大さを改めて感じ入ったCDでした。

ナヌートといえばCDの黎明期に悪名高いPILZのバッタもんCDなどで数多くの演奏が出ていましたが、最近はとんと見かけませんね。 このCDも町田のレコファンでたまたま見つけた中古盤です。 日本のキャニオンによる国内盤で(1989年11月21日発売のスタンダード・クラシックス第1弾のなかの1枚)、ストラディヴァリ(Stradivari)レーベルとなっています。 ナヌートは、スロヴェニアを代表する指揮者ですし、どの演奏もきちんとしているし、もっと正当に評価されても良いと思うのですが・・・日本では独墺系の有名なオーケストラを振っている指揮者でないと相手にされないのでしょうかね、残念です。 もっとも、売れたら売れたで、この名指揮者の演奏を聴くという密かな楽しみが無くなってしまう悲しさを味わうのかもしれませんけれど・・・

ところでこの幻想交響曲なんですが、作曲されたのは1830年(作曲者27歳)ですね。 ベートーヴェンが亡くなったのが1827年、翌年にはシューベルトも亡くなっています。 こうして考えてみると、この曲の前衛さがとても際立ってくるようです。 そしてこんなことに思いをはせながら聴いていると、バルビローリのようなロマンあふれる演奏も面白いのですけれど、ナヌートやカラヤンのようなしっかりとした演奏のほうにより原典っぽいものを感じます。 ま、原典にこだわることはないのですけれど・・・ベルリオーズはこの曲をどのような環境のもとで作曲し、新しい効果を狙って書いていたのかなぁ〜 なんていうことも意識しながら聴いてみると面白いかもしれませんよね。

そこで肝心のナヌートの演奏。 これが古典派の延長線をしっかりとたどったような安定感のある演奏で、特に弦楽器の各声部をしっかりと鳴らしているのが印象的です。 とても巧い演奏で吃驚しました。
冒頭の弦楽合奏の部分、第2楽章のフィナーレなど、涌き上がっているような弦楽アンサンブルなどとても魅力的です。 全体的になんですが、右側から聞こえるヴィオラがよく締まった響きですし、それがまた全体によく呼応しているのが素晴らしい。 低弦はしっかりとしていますが、これはちょっと控えめだからアンサンブル全体に深さが出ても重厚感で押しつけられるようなことがなく鈍重さは全く感じません。 そして木管楽器が美しいのはリュブリャナのこのオケの特長ですから第3楽章になるとこれらがしっかりと噛み合って素晴らしい演奏が堪能できました。 マーラーではちょっと非力さも感じさせる金管や打楽器ですが、このベルリオーズではともにキレが良く、畳かけるような迫力も満点。 第4楽章では必要以上にラッパを咆哮させないフランス風の行進曲(よくコントロールされています)のあとクライマックスへと自然に盛り上がってゆくメリハリがあります。 本当に全くわざとらしさを感じさせませんね。 そして圧巻の終楽章になると余裕を感じる演奏です。 エキセントリックに盛り上げることもないのにとてもカッコ良い。 断頭台への鐘の音もごく普通な響きで自然に流れていきました。 エネルギッシュなフーガからクライマックスに向ってじつに堂々とした音楽の運びで痺れっぱなしでエンディングを迎えてしまいました。 普通っぽいのにぐっと惹き付けるなんてちょっとやそっとでは出来ないことでしょう(ナヌートの本領発揮でしょう)。 良識を感じさせるような素晴らしい演奏に参りました。 こんな演奏が陽の目をみないなんて、やっぱりどこか世の中おかしいんではないでしょうかね。

町田のレコファンにて750円(ただし売値は850円、会員割引後価格)