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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第7回定期演奏会 |
楽章の描き分けが見事なチャイ5(戻る)
奈良フィルハーモニー管弦楽団 第7回定期演奏会
2000年9月15日(金) 13:30 奈良県立文化会館国際ホール
(プレ・コンサート:ドヴィエンヌ:フルート・トリオ 作品19-4)
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
チャイコフスキー:交響曲第5番(アンコール:チャイコフスキー:くるみ割り人形より「花のワルツ」)
(アンコール:「故郷」)フルート:早瀬文子、富岡貴代、原祐子
ピアノ:藤村久美子指揮:井村誠貴
ちょうど1年前、前日までの台風の余波がまだ残るなか、初めて奈良フィルハーモニー管弦楽団を聴いたことを思い出す。 オケの名前は第1回定期演奏会の時から知ってはいたが、それまで全く食指が動かず、直前の新聞記事「奈良フィル物語」(朝日新聞奈良版)でふっと思い立って出かけた演奏会であった。 指揮者の井村さんについてもその時まで名前も聞いたことは無かったのだが、実によく考えられた指揮ぶりで、この演奏会は僕の記憶に強く残る演奏会となっている。 以来、井村さん・奈良フィルともに応援している。 そして今回もまた井村さんの指揮は実によく考えられた音楽であり、ひた向きに音楽に取り組む奈良フィルの姿にも非常に好感が持てた演奏会であった。 特にチャイコフスキーの5番は、各楽章の描き分けが素晴らしく、クライマックスは大熱演となった演奏会であった。
開場直後のロビーではオケのメンバーによるプレ・コンサート。 コンサートの前のこうしたサーヴィスは、何より気分を和ませてくれるし本番への期待も高めてくれるものである。 が、反面オケのメンバーにとっては負担になりはしないかと、ちょっと複雑な心境にもなってしまう。 素敵なフルート・トリオが演奏され、そうこうするうちに会場はほぼ9割の入り。 いよいよ本番の開始となった。
冒頭のロメオとジュリエットは、終始ちょっと遅めのテンポで丁寧に鳴らした演奏であった。 コラール風のパッセージからの盛りあがりや第1主題の提示部などはチェロ・コントラバスを中心にした井村さん流ではあったが、全般的に管楽器が抑え気味に鳴っていた。 また第2主題の提示ではヴィオラが薄くて少々残念であった。 しかし、展開部での第2主題が再現される部分から死を告げる部分までの熱い心情はよく感じられた。 個人的に、バーンスタイン/NYPのように多少オケはザラついても劇的な要素を強調したような演奏が好きである。 このため、少々物足りなく感じたことは事実である。 是非ともまた聴いてみたい。
ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲。 偉そうなことを言うようだが、意外とピアニストが巧いので吃驚してしまった。 オケの台所事情によってソリストが左右されるのでこう思うのだが、特に協奏曲をほとんどやったことのない人が出てくるとバランスが悪くて困ってしまう。 しかし藤村さんは、第1変奏の冒頭こそ音が飛び出して聞こえてしまったが、終始安心して聴いていられた。 印象に残ったのは11から12変奏にかけての深く輝くような響きと、12変奏でのメロディがピアノ・ヴァイオリン・ホルン・チェロと受け継がれていくあたりから15変奏あたりのきらびやかさであった。 オケも11変奏あたりから音に深みが増したようで、特に聴かせどころの18変奏は憂愁の響きであり、甘く・せつない感じが素晴らしかった。 クライマックスは迫力・ねばり感もあって、ちょっとした儲けものという感じであった。
休憩時間に会員更新のためにロビーに行って団長夫人の大原さんと一言・二言かわしたのだが、大原さんも「井村さん、大健闘ですね」と嬉しそうだった。 しかし、このあとは大健闘なんてものじゃない大熱演となった。
チャイコフスキーの交響曲第5番は、昨年末の奈良女子大管弦楽団の定期演奏会でも演奏された曲。 井村さんにとっても手中にある曲。 基本的には昨年と同様な指揮ぶりあったが、オケの精度が高いぶん緻密な音楽となっていたように思う。
第1楽章の運命のテーマの部分ではヴィオラとチェロをちょっとひっぱるようにして重苦しさを強調していたのではないだろうか。 第2主題のヴァイオリンを始めとして弦楽器群がとても丁寧に扱われていたように思う。 管楽器では再現部冒頭などでのファゴットが大健闘であった。
そして今回の演奏の白眉は第2楽章のアンダンテ・カンタービレ。 冒頭の森閑とした弦楽器の渋い音色のなかから東谷さんのホルンが一筋の光明のように密やかに響き渡る。 見事であった。 そしてこのあとオーボエ、クラリネットなどがメロディを受け渡し、オーボエの可憐なソロ、そして弦楽器による第2主題になるあたり、奈良フィルらしい上質な部分がよく出てたように思う。 そしてこの第2主題ではチェロ・コントラバスが音楽を支えているのが井村さん流。 躍動感もありゾクゾクっとくる。 こののちの中間部でのチェロも雄弁であった。 第1主題の再現前の休止もバッチリ決まっていたので、このあとのピチカートからヴァイオリンによる第1主題の再現が息づいている。 さらにここに絡むオーボエが可憐で美しい。 そしてこの後の怒涛のように盛りあがる部分では低弦楽器にうねり感があり、ここに金管楽器が追い討ちをかけてくるので迫力満点であった。 そして密やかなクラリネットで締めくくられた時には会場からパラパラと拍手もあり、これは十分にうなづけるものであった。 ぢつに素晴らしい楽章であった。
ちょっと長めの休息をとってからワルツの第3楽章。 ここでは井村ワルツ全開。 指揮台の上で指揮者がワルツを踊る。 弦楽器から木管楽器に旋律が渡されると、今度は左右の肩を交互に上げたり下げたり、くねくねと上半身が踊る。 奈良女子大管弦楽団のときとまったく同じような動きであった。
アタッカで入った第4楽章冒頭の主想旋律には威厳が漂う。 ここから一気呵成のクライマックスへと突き進んでいった。 前回定期のベー7の時には前のめりになっていたため少々いただけなかったが、今回は低弦にリズム感があり、特に展開部からは心臓の早鐘に合わせたようにずんずんと音楽が進んでゆくのが爽快。 井村さんはここで更に手をぐるぐると回して低弦に煽りをかける。 音楽が更に熱を持つ。 金管楽器のファンファーレ、ティムパニの強打による偽終止も見事に決まって、ここからのコーダではヴァイオリンにも煽りをかけ、実に壮大な音楽となってフィナーレが締めくくられた。 ブラボー、会場内が湧きかえっていた。最後に今回の演奏会は、指揮者の井村さんの事故による右耳の負傷という複雑な心境で臨んだ演奏会であった。 しかしそのようなことを知らない人には微塵もそんなことを感じさせない素晴らしい演奏であった。 またこちらも、耳が悪いのに... という前提では聴かないように心がけたつもりであるが、十分に感動した演奏会となった。 惜しむらくは、少々管楽器の音が伸びきらないようなミスも散見されたのであるが、これはオケの問題。 次回の定期は、主席奏者原さんによるモーツァルトのフルート協奏曲第1番とベートーヴェンの田園交響曲。 オケにとってもかなり挑戦的なプログラミングではないだろうか。 井村さんと奈良フィルの更なる飛躍を期待したい。