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大阪シンフォニカーフェスティヴァル名曲コンサート15 |
霊感を感じた期待以上のモーツァルト、期待どおりのカルミナ(戻る)
大阪シンフォニカー フェスティヴァル名曲コンサート15
2000年10月15日(日) 18:00 フェスティヴァル・ホール
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488
オルフ:世俗的カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
独奏:佐々由佳里(p)
独唱:六車智香(S)、茶木敏行(T)、田中勉(Br)
合唱:大阪シンフォニカー「カルミナ・ブラーナ」特別合唱団、岸和田少年少女合唱団
指揮:トーマス・ザンデルリンク
本年最後のフェスティヴァル名曲コンサートは、ザンデルリンク指揮によって大曲カルミナ・ブラーナで締めくくられるとのこと、期待も大きく膨らむ。 しかし、大きく期待を裏切ったのが、これに先だって演奏されたモーツァルトのピアノ協奏曲。 スタッカート気味なピアノは過度の装飾をさけてあくまでもモーツァルトらしく、オケは木管楽器はいわずものがな弦の分奏が綺麗。 大阪シンフォニカーで、いや大阪でこのようなモーツァルトが聴けるとは思いもしなかった。 まさにモーツァルトの霊感をも感じさせてくれた大収穫の演奏会であった。
第1ヴァイオリンは10名だろうか、僕の位置からはよく見えないが、コントラバスは4人だったので、10型のオケが通常の配置で並ぶ。 ザンデルリンクはモーツァルトでもあくまでも正攻法。 今まで、ザンデルリンクが演奏するモーツァルトを何度も聴いており、ピアノ協奏曲も何度も聴いてはいるが満足したためしがない。 それは正攻法ということがある。 何か足りなくてつまらないのである。 ドイツの田舎のモーツァルト、朴訥としていて軽妙・洒脱さが足りない、と思ったこともあるが、よくは分からない、とにかく何かが足りないのである。 そして今回もまた正攻法でオケは並んでいたので、こちらの期待はもっぱらカルミナ・ブラーナであった。
しかし序奏が始まると、これまでとは雰囲気が違う。 弦楽器の分奏がとても綺麗なのである。 まずこれに驚かされた。 ヴァイオリンが一糸乱れず透明感があるとなるとピアノが入るまでの長い序奏も楽しくなってくる。 第70回定期での弦楽器群の充実ぶりや、アンコールのモーツァルトを思い出し、おやこれはひょっとすると... と思ったが、いや待て、ピアノを聞かないことにははじまらない、と思いとどまることにした。 佐々さんのピアノはこれまでにも数回聴いているのだが、特に悪い印象はないがこれと言ってすごく良かったという印象もない。 しかしこの日は違っていた。 音の粒立ちが非常に綺麗であることに加えて、過度な煌(きら)びやかさがなく若干渋いめの音色である。 とにかくロココ風を意識したような甘くて安っぽいモーツァルトは苦手なのである。 これまでに聴いたモーツァルトはこのタイプが多く、あとは生真面目に弾いて面白みの欠けるタイプのどちらかである。 しかし佐々さんは僕の好みの音色であって、最初は気付かなかったのだが、これを一音一音をスタッカート気味に早めに切り上げいる。 もう僕の理想的なモーツァルト。 こんなところで出会えるなんて... というと失礼だろうか、とにかくもう吃驚した。 第1楽章はそんな驚きを覚えながら、いつもどおりに末原さんや村瀬さんの柔らかく効果的な木管楽器の響きとあいまってちょっと興奮気味に聴いていた。 さらにカデンツァでも、ちょっとテンポを落としてからぐっと盛り上げてオケに繋げたあたり、佐々さんのピアノは非常に効果的であったように思う。 これは凄いことになったなぁ、と一人で満足してしまった。
第2楽章の冒頭、音の余韻を楽しむようにゆっくりと弾きはじめる。 静寂の時間が流れてゆく。 村瀬さんのクラリネットがその情感をしっかりと受けとめて称えあげる。 深くくすんだような味わい深い楽章であった。 ヴィオラ・チェロ・コントラバスのピチカートも息づいているし、ホルン(結婚準備のために9月末で退団された上野さんがトラ出演)は目立たないがしっかりと響きを下支えしているから、このような深みも一層増しているのだろう。
第3楽章、終始スタッカート気味でとても心地良い。 左手の動きもよく締まっていてパンチも効いているのも効果的である。 オケ、ことにヴァイオリン群は前から後ろまで弓がきちん揃っていて見るからに音の純度が高く透明感があふれているのもこれまた気持ちいい。 インスパイアされたこの音楽が終るのが惜しいくらいだ。 ぼくが理想するアンネローゼ・シュミットとドレスデン・フィルの演奏をナマで聴いているような感覚である。 いやそれ以上に素晴らしい演奏であったように思う。 演奏が終って会場の拍手はとても暖かかったが、ブラボーはなし。 好みが違うのだろうが、汗をいっぱいかいた熱演ばかりがブラボーじゃない。 一人心の中でブラボーを叫びまくっていた。
しかし演奏をふりかえってみると、ことさらザンデルリンクは変わったことをしている風はなく、たんたんと正攻法で進めていた。 これまでザンデルリンクの求めていたモーツァルトをオケが実現できなかったのではないだろうか。 ザンデルリンクのモーツァルトは面白くない、というのは返上したい。 なおあとで気付いたことだが、佐々由佳里さんはモーツァルテウムの大学院を修了されているとのこと。 本場仕込みならこの名演も納得できる。 またカーテンコールで呼び出される態度もおごりが全く感じられず、舞台袖に入る前に立ち止まり、客席にむかって再度一礼されたことも非常に好感が持てた。 今後注目したピアニストである。さて、モーツァルトの印象が強くて長くなってしまったが、メインのカルミナ・ブラーナもまた正攻法であった。 こちらは期待どおりの熱演であり、演奏終了後にはさかんにブラボーもかかっていた。 個人的には、期待以上のものを先に聴いてしまったので、期待どおりというのはちょっと分が悪くなるのは仕方ない。 それでも、派手にやればそれなりに聴けてしまうカルミナを、ザンデルリンクは派手さを抑え、丹念に音を重ねていく正攻法である。 ドイツの古謡を朴訥と歌いあげてゆく非常に好感のもてる演奏であった。 これに合唱団もオケによく応えていたように思うが、いかんせん合唱の迫力は出せてもじっくりと歌いあげる部分では多少の不満が顔を覗かせるし、またオケのラッパも不揃いになる場面もあった。 繰り返しになるが、普段ならこんなこと全然気にはしないのだが先に素晴らしいものを聴いてしまっただけにこのようなことも気になってしまう。 全く別物としないといけないのだが、僕はひきずられてしまっていたことを最初にお詫びしておきたい。
演奏は冒頭から非常に引き締まったリズム(花石さんのよく締まっているがちょっと湿ったような音のティムパニによるところ大)で始まった。 合唱も勢いがありよく揃った導入で気持ちがいい。 ヴァイオリンもあいかわらず後ろのプルトまで一糸乱れず進行していった。 しかしこのレベルまでくると、合唱ではやはり人数的なものがあるけれど、男声部分に艶のようなものが欲しくなる。 また全体的に言えることだが、ことに前半、優しく静かに歌う部分での合唱精度が落ちたのが残念であった。 しかし男声合唱も第1部の7曲目あたりになるとずいぶんとノッてきたように感じた。 第9曲目は迫力満点であったし続く第10曲目では輝かしさも感じられフィナーレも見事に決めていた。 ソリストな何といってもバリトンのソロの田中さんがよく透る柔らかい声で特筆すべきだろう。
第2部では、田中さんのバリトンがあいかわらずの良い声で魅了してくれた。 ことにグレゴリオ聖歌のパロディである第13曲目の歌いまわし・切れの良さが印象に残った。 前後するが第12曲目、ファルセットで歌うテノールの茶木さんは、ちょっと堅いかな、もう少しおどけたように歌って欲しかった。 すると力強い男声合唱との対比も出て面白かったように思った。 なおここでは藤崎さんがファゴットでの奇妙な音をうまくだしていたのが非常に印象に残った、巧い。 また第14曲目、コントラファゴットが不気味に響くなか、テンポに変化をつけて歌う男声合唱もよかった。
第3部、ここまでじつに退屈そうに座っていた児童合唱のメンバーもようやく起立。 ソプラノは名曲コンサートでお馴染みの六車さんとの第15曲目。 前曲と一転して優しい歌であるが、児童合唱は予想以上にすがすがしくてよかった。 六車さんはあいからわずのよく透る声であったがこれに少々憂いも感じさせるような歌となっており魅力的であった。 第17曲目の独唱でも感じたが、六車さんは聴く度に巧くなるように感じられる。 全体的にどんどんと表現に幅がついていくようである。 第21曲目での深いやさしさを秘めた歌、第23曲目のコロラトゥーラ風のカデンツァでは技巧だけではなく十分な声量もあって聴き応えがした。 この他では無伴奏となる第19曲目の田中さんの独唱が素晴らしく合唱もまたよく頑張ってこれに対向していた。 これに続く第20曲目ではピアノや打楽器も加わり盛りあがる場面だが、合唱も前曲からのノリでよく歌っていたのが印象的だった。 第22曲目ではちょっとノリすぎたのかゆっくり歌う部分が散漫に感じられたのが残念。 児童合唱の部分ではややテンポを落として歌うように指示されていたのだろうか。 しかしフィナーレの前の第24曲目はノリの良さが良い面としてはじけ出るような迫力をもって始まり、そのまま冒頭の繰り返しとなる終曲では堅さもすっかり取れてとれて熱っぽく盛りあがる大阪シンフォニカーらしい感動のフィナーレ、熱演となって終った。 当然のようにブラボーがかかっていた。
指揮棒をおろしたザンデルリンクはまず合唱団を長く称えてから田中さんそしてオケを立たせてから客席を向いた。 派手さを抑えて作品自らの内容からの深い味わいを引き出すようなカルミナ・ブラーナであり、非常に好感の持てる演奏であった。 予想どおりといえば予想どおりの演奏、というとそれまでなのだが、高いレベルで期待を裏切らない見事な演奏であった。