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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第9回定期演奏会

作曲家による音造り戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第9回定期演奏会
2001年9月15日(土) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 作品11
シューマン:交響曲第3番「ライン」変ホ長調 作品97

(アンコール:エルガー:愛の挨拶)
(アンコール:岡野貞一作曲、北川文雄編曲:故郷)

ピアノ:小林かずみ
指揮:杉山洋一

杉山洋一さんのプロフィールによると桐朋学園作曲家を卒業しミラノを中心に作曲と指揮をされている方とのことである。 プログラムの写真よりも実物のほうがずっと若く見えるちょっと珍しいケースでもあった。 その若々しい杉山さんから繰り出される音楽は、縦の線を基調にしたもので、とうとうと流れたり歌ったりすることが少なくて、作曲家による音楽造り、という印象を持った。 しかし演奏は、それぞれに力の入ったものであって、作品を冷たく突き放したしたような感じではなく、響かせかたなど個人的にはなかなか面白く聴けたのだが、いかんせん音楽の強弱の幅が狭かったこともあり、音楽として心底楽しんだかというとちょっと疑問を感じた演奏であった。 オケの体質と合っていなかったのか、それとも選曲が合っていなかったのか・・・後者のような気がしたがどうだろうか。 音楽としては、肩の力の抜けたアンコールが一番楽しるものであった。

最初の「魔弾の射手」序曲は、ちょっと伸びやかさに欠けたような演奏であった。 まず冒頭の弦楽器と木管楽器のユニゾンによる開始からやや音が大きかったのに吃驚した。 オケは丁寧に演奏することに終始しており、またホルンやクラリネットは気合の入った素敵な音色を聴かせてはくれたが、中間部や終結部に出てくる弦楽器によるアガーテが歌う優美な主題も堅くて残念であった。 これは他の曲でも感じたことだが、音楽の強弱の幅が狭いように思った。 ピアニッシモのところはピアノ、フォルテッシモのところはフォルテといった感じだろうか。 全体としては纏まった響きにはなっているのだが、ちょっと窮屈な印象である。 お行儀良く丁寧なのだが、もっと伸びやかに歌うべきところは歌ってほしかった。
これに続くショパンのピアノ協奏曲は力の入った演奏であった。 第1楽章の冒頭の弦楽器やティムパニの音が重く、なかなか重厚な感じの始まり方で期待が持てた。 なよなよしていないところがいい。 第1主題はやや歌うようにゆっくり、第2主題は対旋律のチェロがくっきり浮かび上がるところなども面白ろかった。 さて、小林さんのピアノもまた力強いタッチで入ってきたが、やや明瞭さに欠けたのはホールの響きのせいだろうか、もうちょっと煌びやかさが欲しいような気もした。 ピアノ、オケともに重厚な感じで曲が進んでいった(しかし、このホールは聴く場所で響きが異なるのではたしてそうだったのだろうか)。 この楽章で面白かったのは、楽章の後半、弦のピチカートをボンと際立たせたり、トロンボーンを強奏させていたことである。 ピアノが良いメロディをほとんど持っていっている曲だけに、オケの主張が強い演奏は面白い。 第2楽章の弦による序奏もやや力が入っていた。 どうも静かに入ることをためらっているのか、自信を持って元気に演奏しているのか・・・ ピアノもまた柔らかなのだがやや不明瞭に聞えたのは相変わらず。 この楽章は淡々と曲を展開させていたようだ。 ファゴットとピアノが絡む場面、ここを互いに合わせながら、朴訥なファゴットとちょっとくすんだピアノで歌ってくれるのが好みなのだが、互いにそしらぬように流れていった。 そして終楽章はまた力強い開始からやや一本調子的に粘らずに一気に演奏しきった、という感じであった。 ただ最後の最後だけはやや力を抜いてふわりと着地したことが印象に残った。 全体的に力の入った演奏であった。
シューマンのラインは、前半はどこかしら堅さが取れない演奏だったのが残念であったが、第4・5楽章が見違えるように充実して響きとなり、終り良ければ全てよし、といった感じであった。 第1楽章の冒頭は杉山さんの大きな振りに音楽が付いてこず、ちょっと芯が抜けたようで、あれれ・・といった感じ。 あとはごくあっさりと主題を提示して展開して曲が進んでいった。 後半のホルンのユニゾンは力強くて素晴らしかったが、あっさりとこの楽章を閉じてしまった。 第2楽章は「ラインの朝」という副題が当初ついていた楽章なのだが、のどかさをあまり感じず、ややせわしなく進んでいった。 各楽器は一生懸命に鳴らしているのだが、縦の線は合わせても、横の繋がりがあまり感じず溶け合わない感じ。 バラで鳴っていたみたい。 これは第3楽章でも同じような感じであった。 杉山さんの指揮は大きな縦振りがほとんどであるからか、縦の線を揃えてスパスパと曲を進めてはいるのだが、オケがこの間の響きをなんとか繋いでいるような感じに聞えた。 もしオケが対向配置になっていたなら、もっと違った響きになって楽しめたのかもしれないのでは、そんなことを感じながら聴いていた。 しかし第4楽章から見違えるように響きが溶け合ってきた。 この楽章はバッハの影響を受けたポリフォニーの世界であって大好きな楽章であるが、ここのトロンボーンによるコラール風の調べが実にゆったりとした響きに満たされていて素晴らしかった。 さらにこれを受けた弦楽器群、とくにヴィオラの響きを中心にした抑制された響きに繋がれていったあたりとても見事であった。 これまでの性急さはどこへいったのだろうか。 そして終楽章、この楽章もまた抑制のよく効いたファンファーレが素晴らしい。 野放図にならず陽光にあふれている。 また弦楽器群も響きに厚みが増し、芯がきちんと通った弾力を感じる。 そんな力強い行進曲が進み、第1楽章や第4楽章の旋律が呼び戻されるあたりはちょっと感動的ですらあり、フィナーレは一気に終わった。 どの曲ともそれぞれに面白くは聴けたが、曲としての纏まりという感じではちょっと疑問の残る演奏であった。 ただけっして手を抜いていたわけでもなく、真剣で力の入った演奏ではあったのだが・・・ 杉山さんの指揮者としてよりも作曲家としての性向のようなものが勝ったせいなのだろうか。 肩の力の抜けたアンコールでの弦の響きの豊かさを耳にすると、そのように感じてならなかった。