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宝塚市交響楽団 第34回定期演奏会

想像力を喚起させ、懐の深さを感じた演奏会戻る


宝塚市交響楽団 第34回定期演奏会
2002年3月2日(土) 19:00 尼崎市総合文化センター・アルカイックホール

プッチーニ: 歌劇「マノン・レスコー」間奏曲
ストラヴィンスキー: 組曲「火の鳥」(1919年版)
ブラームス: 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

指揮: 井村誠貴

一度聴きたいと思っていた宝塚市交響楽団(通称:塚響)の定期演奏会に井村さんが指揮されるとのことで聞き逃すわけにはいかない。 そんな期待を持って出かけた演奏会は、プッチーニの間奏曲で聞かせた情景、火の鳥での懐の深さ、ブラームスの端正さなど、いずれもきちんと期待に応えてくれた。 井村さんはイタリア留学の成果だろうか、くりだしてくる音楽の中に、以前よりもより深さや幅を感じさせるものがあったように思う。 オケもソロ、アンサンブルともに抑制のよく効いた演奏で、ごり押ししない彫りの深い響きで充実した演奏だった。 とくにプッチーニのマノン・レスコーの間奏曲は、この両者の良い面が合わさった素晴らしい演奏となっていたと思う。 醸し出されるような音楽情景に惹き込まれてた。

そのマノン・レスコー間奏曲、冒頭のチェロとヴィオラによる和音にヴァイオリンも加わり、さらにソロだけではなく、これに続く弦楽器全体がふわりとした響きに満たされた合奏がじつに素晴らしかった。 そして流れ出てくる音楽には聴く側の想像力を喚起させるに十分な余裕があり、実に説得力をもった演奏だった。 このオペラは見たことがないけれど、その情景を切り出してきたかのような気分にさせてくれた。 素晴らしかった。
火の鳥もまた懐の深さというのだろうか、ソロ・合奏ともに聴き応えのある音楽で、とくに魔王カスチェイの凶悪な踊りで必死で弦をはじくコントラバス奏者の熱演に代表されるように、オケのエネルギーが常に内側で発散され、それが全体として充分に抑制されている密度の濃い音楽だった。 熱演だったと思う。 イントロダクションでの十分に神秘的な開始、火の鳥の踊りとヴァリエーションにおける弦の分奏と木管楽器のアンサンブルも見事、王女たちのロンドではちょっとため息をつくかのような情感をもった演奏になっていたし、カスチェイではそれが一転して力強く熱のこもった演奏で盛りあがった。 子守歌における深い夢をみるようなファゴットの響きも素晴らしかった。 そして強く印象に残ったのは、フィナーレでの風のささやきのようなまだまだ夢見心地のヴァイオリンのトレモロからホルンが少し明るみをもった響きでロシア民謡を奏で、ここから弦楽器の表情にも明るさが戻ってくるあたり。 目の前に風景がぱぁっと開けてきた。 そしてゆったりとし、大きく確実な足取りでエンディングに向った。 特徴のあるそれぞれの場面が誠実に描きわけられ、表面をなぞるだけではない深い響きと熱さが感じられた火の鳥の組曲だった。
休憩を挟んだブラームスの交響曲第3番は、全体的には端正な演奏だったと思う。 ただ前半はちょっと端正すぎてやや平板に流れたかな、と思ってしまったが、第3楽章より潤いが増してきたようだ。 最後はやはり熱気を孕んだフィナーレとなり、エンディングも少々その熱をもったまま曲が閉じられた。 静かに終わる曲であるだけにちょっと熱く終わったのか。 曲順を火の鳥と入れ替えたらまた感じ方も違っていたのかもしれない。 ずいぶんと聴いてきた曲だけに、ちょっとハードルが高いのは許してもらいたい。 さて、第1楽章は情熱的な導入だったけれど第1主題のヴァイオリンの響きを始めとしてやや弦楽器全体が薄いのが気になった。 なんか音楽が定型的に流れていくようで、さっきまでの流麗さや深みがあまり感じられない。 これは第2楽章にも言えて、一生懸命ブラームスを演っています・・・的な感じだろうか。 これはオケの問題というよりも指揮者の感性の問題かな、と思った。 どうだろうか。 井村さん、息の短い音楽が繰り出されてくるような音楽の場面を繋いで聴かせるのは得意なようだが、このような構成的な音楽になるとどこかちょっとしゃっちょこばってしまうような気がする。 オケの精度も高いので余計にそうなってしまったのかもしれない・・・ これが一気呵成に鳴らしたり雰囲気で聞かすようなオケならまた違った燃え方をするのかなぁなどと(生意気にも)思いながら第3楽章に期待することにした。 その第3楽章は、予想どおり音楽が見違えて聴き応えのあるものになった。 演歌に通じるようなあの泣きのメロディもクサくない程度に哀しさを含んで歌っている。 弦楽器の音の重なりも増して、木管アンサンブルやチェロ・コントラバスによるピチカートも効果的に響いてくるあたり、さりげなく巧い演出は井村さんの真骨頂といっては失礼だろうか。 そして終楽章はオケの響きに底力が増し、やや堅めのトランペットの音により決然とした響きに聞こえた。 ホルンが素朴に響いた第2主題を経て、展開部に入って音楽は熱くなり、コントラバス奏者全員が身体をいっぱいに使っての熱演が印象的だった。 しかし全体としてヴァイオリンがやや冷静に曲をリードし、暴走することなく充実した熱さとなり盛りあがっっていった。 その熱をもったままコーダになって曲が終わった。 もうちょっとクールに終わって欲しかったような気もしたが、そこまで言うのは欲が強過ぎるのかもしれない。 とにかく、端正さと懸命さが混ざりあったブラームスだったように思うが、終わってみると何気なく第3楽章のメロディを口ずさんでしまう自分がいた。 とにかく充実した演奏で、楽しい気分になった演奏会だった。