BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
ならチェンバーアンサンブル 第61回定期演奏会

時を越えたアンサンブル戻る


ならチェンバーアンサンブル 第61回定期演奏会
2002年3月16日(土) 14:00 なら100年会館中ホール

ロッシーニ: 弦楽のためのソナタ第2番イ長調
ペンデレツキ: クラリネット四重奏曲
クロイツァー: 七重奏曲 作品62

五十嵐由紀子(vn)、植田延江(va)、斎藤健寛(vc)、南出伸一(cb)、鈴木豊人(cl)、片寄伸也(fg)、猶井正幸(hr)

ならチェンバーの室内楽編成による演奏会。 今回は、18,19,20世紀の音楽を並べたちょっと意欲的なプログラミングだったが、どの曲もならチェンバーらしい誠実な演奏ぶりで、充実した時間を過ごせた。 とくに冒頭のロッシーニのソナタが緊密なアンサンブルと豊かな響きに満たされていたが、中でも第1楽章が素晴らしかった。 うっとりと聞き惚れてしまって、この楽章が終わったあとに思わず拍手をしたくなる衝動を抑えるのに必死になるほどだった。 また今回は、前から2列目に陣取った。 このため演奏者の方々が丹念に音楽をつくっていくさまを間近で見せてもらったことで、いつもにも増して音楽(特に室内楽)はナマに限ると痛感するとともに、楽器の弾ける人をこれほど羨ましく思えたことはなかった。

5分遅れて五十嵐さんがマイクを持って登場した。 遠くで見ても綺麗な方だと思っていたが、近くでみるともっと綺麗な方だった。 失礼ながら僕とたいして年齢は違わないと思うのだけれど、声や喋り方も可愛らしくて、どきどきっとしてしまった。 さて、その解説によると、ロッシーニのソナタは1804年に12才で作曲したとのことだった。 演奏は、豊かな響きをゆったりと歌わせた開始から、清澄なヴァイオリン、ほのかに甘いヴィオラ、切ないような響きを含んだチェロ、やさしく要の音を奏でるコントラバスによる緊密なアンサンブルが展開されていった。 目と目、表情でお互いを測りながら演奏する室内楽ならではの盛りあがりもあって、思わず第1楽章を終わったあとで拍手をしたくなる衝動が走り、これを抑えるのに必死になった。 このあとも端正な第2楽章、愛らしい終楽章、やはり音楽とくに室内楽はナマで間近に聴くに限るという当たり前のことを強く感じた。 素晴らしい演奏だった。
続くペンデレツキのクラリネット四重奏曲はクラリネットの鈴木さんの解説があった。 このような選曲になった由縁についてはカール・ライスターにあるとの五十嵐さんの話しについての答えはなかったが、ベルリンの壁が崩壊するなど20世紀が大きく動いた1993年に作曲された曲で、非常に重い内容の曲であるとのことだった。 確かに、クラリネット本来の温かく懐かしい響きが陰鬱な響きとして扱われている。 冒頭から暗く深い闇がしっとりと広がってゆき、第2楽章では緊張感が走り、第3楽章では不安にさいなまれ、終楽章は深く静かに消えていった。 15分ほどの曲だったが、難解ではあるが、とっつきにくくはなく、集中して聴けたし、必要以上に不安を煽われたり、絶望の淵に突き落とされたような滅入るような気分にならなかったのは、このアンサンブルのメンバーの特性だろうか。 ある種の真面目さを感じた演奏だった。 鈴木さんは、どこかとぼけたようなアットホームな雰囲気を持った人だが、真剣に世の中のことを考えてしまう危機的な状況に今あるのだ、と言いたかったのではないだろうか。
休憩を挟み、クロイツェルの七重奏曲はホルンの猶井さんの解説。 メモを時折見ながらベートーヴェンと同門であることなどを喋ったが、堅くなっているのか調性がホ長調なのでホっとさせる調性というところで会場がちょっと沸いたのを無視して先に解説を進めていった。 こおいう解説の難しさを感じたが、曲を聴くまえに演奏者の方が話しをしてくださるのは嬉しいものである(くどくなければ、念のため猶井さんはくどくありませんでした)。 さて音楽の方は、中央に座られた鈴木さんが身体全体をつかってまるでジェスチャーのようにクラリネットの音に表情をつけておられたのが強く印象に残った演奏だった。 第1楽章は緊張感の走った冒頭からアレグロになるとリラックスしてリズム感の良さが光っていた。 第2楽章はクラリネットを始めとして各ソロがやわらかく春を感じさせるよう。 第3楽章はのびやかなメヌエットで、ホルンソロが安定していて心地良かった。 第4楽章はゆったりとし、丁寧なアンサンブルだったが、少々眠くなってきた。 第5楽章はクラリネットの奮闘が光っていたのと、ヴァイオリンのきりりっとした音が印象的。 終楽章はチェロとコントラバスのピチカートがまろやかで全体をチャーミングに纏めたフィナーレだった。 ならチェンバーらしくきちんと纏めた感じ。 アンコールとして、この曲の第3楽章が再演されたが、より伸びやかになった。 たしかにミスも散見されたが、その都度目で笑いかけていたり、手をぬぐってみたりする、そんな演奏者の方々の表情を間近にみながらの演奏はとても楽しかった。 充実した時間を過ごすことのできた満足感で演奏会場を後にできた。 充分に時を越えた演奏会だった。