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喜歌劇楽友協会 第46回定期公演 |
ドラマを支えた音楽の素晴らしさを堪能(戻る)
喜歌劇楽友協会 第46回定期公演
2004年5月15日(土) 17:00 森之宮ピロティホールビゼー: 歌劇「カルメン」全4幕(日本語上演)
演出:向井楫爾
カルメン:古山淑子
ドン・ホセ:小林 仁
ミカエラ:高 月美
エスカミーリョ:篠原良三
フラスキータ:樽本裕子
メルセデス:秦野香織
ダンカイロ:山中雅博
レメンダート:清原邦仁
スニガ:森田有起
モラレス:角地正直
パスティア:東 義久フラメンコ:大村照夫と公受めぐみ、山村泰代、岡田昌子、大島美沙ほか
子供:田辺翔子、田辺真子、久米陽賀合唱:喜歌劇楽友協会合唱団、大阪すみよし少年少女合唱団
管弦楽:エウフォニカ管弦楽団指揮:井村誠貴
今回のビゼーの歌劇「カルメン」、何よりも音楽が素晴らしかった。 主人公の気持ちの揺らぎ、心をふっとよぎる不安、そのような事柄を見事に音楽の中に散りばめ、舞台と一体となって進行していました。 「カルメン」の音楽は、組曲などではよく耳にしていましたが、それ以外のストーリーの展開の部分も実によく考えられていることを今回始めて知りました。
井村さんとエウフォニカーの演奏は、ツボをきちんと抑えた以上の迫力、不安な心の表情の表現、そして何より感動がありました。 これらによってストーリー以上の深みをこのドラマに与えていたのではないでしょうか。
カルメンという魅惑的な主人公がいて、ドン・ホセという男が篭絡され、最後には逆上して刺し殺してしまうという、ある種ショッキングな展開によって(といっても最近はこんなこと日常茶飯事、もっと大変な事件のほうが多いのですけれど)有名なオペラになったのではなく、これらの音楽が息づいていてこそ名曲として今日もあることを実感しました。 音楽そのものがサウンド・ドラマとなって、この物語を一種の心理ドラマにしていたように思いました。
なおキャストで光っていたのは、ダンカイロとレメンダートの二人。 声に張りがあってよく響くし、演技も悪党らしく堂に入ったものでした。 この二人が動きまわると、舞台がグッと引き立っていました。 あとエスカミーリョも堂々たる闘牛士ぶり。 闘牛士の大御所といった感じだったでしょうか。
メインキャストのカルメンは堂々としていて憎たらっしさも充分だったのですけど、ドン・ホセは優柔不断というよりもやや病的とも感じさせた虚弱さがちょっと気になりました。 なんかこの二人では釣り合いが取れないよな、なんて思って観ていました(すみません)。 あとご両人ともに声の響きが柔らかいため、歌と言葉の通りがあまり良くなかったこともマイナス要素になったかもしれません。 でもホセが第2幕で歌った「おまえが投げたこの花は」。 このアリアは声の特質とも合っていたし、感情もよく乗っていて聴き応えがあったのが収穫でした。
そして最後に、第1幕と第4幕で出てきた子供達がとても可愛らしかった。 もちろんしっかりと演技もし歌っていました。 喜歌劇楽友協会の公演、群集シーンや合唱になると気合が入りますね。 曖昧にすることなく、一致団結して決めてくるって感じがします。
とにかく今回の「カルメン」、最初にも述べたように、これらを総てひっくるめ、ドラマを演出した音楽の素晴らしさが全面に出ていた公演でした。
さて、簡単に公演をふりかえってみたいと思います。
開演30分前に森之宮ピロティに到着。 ホールに入る階段の赤い絨毯を見たら、なんとなく「カルメン」のイメージとピタっと合わさってワクワクしてきました。
さてそんな気持ちでホールの中に入ったのですけど、良さそうな席は抑えられてました。 こうなると、いつものように左側の前の方に空きがあるので、そこに落ち着きつくことにしました(G-37)。 そしてあとは開演まで黙々とプログラムを読んで予習です。 だってカルメンの大づかみな話の流れは知っているつもりでも、文章にすると100文字も書けないほどでしょう。 詳細はよく知らないのです。 せっせと予習して知識をつける作業に専念していました。ふっと気付くとオケの方がすでに入っておられ、定刻を知らせる音楽が流れます。 このホール、普通は昔ながらのブッーというブザーなんですけどね、さすがに今回は違います(けど、音が大きくて割れ気味なのが気になりましたけど)。
暗くなって、スポットライトを浴び、にこやかに井村さんが登場。 一礼のあと、いつもどおり、さっと身を翻して第1幕の前奏曲をスタート。 耳に馴染んだお馴染みのメロディが、景気よく明るい音楽として迸(ほとばし)り出てきます。 メリハリは効いているんですけど、ちょっと焦点が定まらないような感じもちょっと受けたのはまだ始まったばかりだったからでしょうか。 第1幕が上がりました。
ここでまず良かったのは衛兵の交代。 このシーンがとても素適でした。 子供達も可愛らしかったし、合唱・オケとも華やかだけど音楽が優しく息づいてていました。 客席もぐっとこれには惹き付けられたようです。 そしてひとしきり盛り上がった華やかな舞台のあと、ホセが登場するとなんか優しすぎるんじゃぁ・・・ってのが印象。 そして女工達に続いてカルメンが登場すると、貫禄あるなぁ・・・ってのが印象。 ちょっと不釣合いに思えましたけど、この出会いの音楽が見事でした。 カルメンがホセに花を投げるシーン。 ここの音楽による緊張感、ぞくぞくってきました。 まさしく音のドラマって感じでした。 音のドラマといえば、カルメンを逃がすところもそうでした。 対する二人の緊迫感、ドキドキ感がたまりませんでした。 組曲のカルメンの音楽は聴いていますけど、このようなシーンの音楽は始めてだったこともあって、吃驚しました。 こんな凄い音楽、サウンド・ドラマみたいなの書いていたんですね。 知りませんでした。
15分間の休憩のあと第2幕。 第2幕への前奏曲(アルカラの竜騎兵)は艶やかな音楽が魅力的。 そして幕があがると迫力ある大村照夫のフラメンコ、この場面の音楽も熱く情熱的で、舞台を盛りたてていました。 このシーンでは、脇役ですが、ダンカイロとレメンダートの二人が光っていましたね。 声に張りがあってよく響くし、悪党らしく堂に入った演技。 この二人が動きまわると、舞台がグッと引き立ってくるようでした。 この二人とカルメン、フラスキータ、メルセデスの5名による歌が素適でした。 あと前後しますが、エスカミーリョも見事な堂々たる闘牛士ぶり。 闘牛士の大御所といった感じでした。 それに反してホセ、相変わらず気弱で頼りなさが全面に出てました。 兵舎のラッパが鳴り、カルメンのカスタネットが響くあたり、このホセの複雑な心境を表したような音楽が見事。 心理ドラマみたくドキドキしてしながら見入ってました。 そしてホセの歌うアリア「おまえが投げたこの花は」が柔らかい声質ともよくマッチしていたようです。 気弱だけれど誠実な感じがしてよかったですね。 最後、そんなホセも密輸団に加わらざるを得なくなり、酒場の全員による力強い合唱と音楽が素晴らしく、大団円で幕となりました。
15分間の休憩のあと第3幕。 井村さんが出てこられて一礼したあと、最前列のお客さん2名に紫陽花の鉢植えをプレゼント。 うわぁ(自分も欲しい)というタメ息の残るなか第3幕への前奏曲(間奏曲)が始まりました。 フルートにハープの美しいメロディ、若干フルートの音が硬いかな、と感じましたけど、全体的にはしっとり感のある音楽でした。 もちろん集中力もありました。 で、幕が上がると山の中のシーン。 これまでの美しい音楽とは対照的な薄暗い場面が続きます。 しかしここでも音楽描写が見事でした。 まずはフラスキータ、メルセデスがカルタを切る場面の音楽。 とても息づいていましたね。 そして彼女たちの張りの声もよく通っていました。 ただカルメン、暗い未来を暗示させるってこともあるのでしょうが、声の響きが多くて多少聞き取り難い感じがしたのが対照的でした。 この3人が、税官吏をたぶらかしに行く場面の3重唱から合唱のあたり、木管楽器が素適に響く起伏のある音楽がまた良かったですね。 舞台が静かになり、ミカエラが登場。 第1幕でも思ったのですけど、端正な声の持ち主ですね。 清楚な歌が魅力的でした。 またここのアリアのあたり、ホルンも入って心理をすくような音楽でしたし、エスカミーリョが登場すると緊迫した音楽に変貌。 場面場面によって音楽が自在に変化するのをただただ聴き入っていました。 サウンド・ドラマを堪能させてもらいました。
10分間の休憩のあと、いよいよ最後の第4幕。 舞台の両ソデから紳士淑女が登場し、舞台の幕が上がって集合しますと、前奏曲(アラゴネーズ)ののって大村照夫さんと公受めぐみさんによるフラメンコ。 この後、子供達が舞台ソデから走り出てきて「そら来たぞ、四人組」の合唱となり、音楽は「闘牛士の歌」に変わります。 このあたり息もつかせぬ感じの展開。 舞台上も華やかですけど、シンバルの一撃に井村さんが右手をグーにして指示するなどオケも一層盛り上げてました。 さて、華やかなシーンも終わり、フラスキータ、メルセデスがカルメンに忠告する場面の音楽。 ここも音楽の変化による心理描写、舞台へと神経を集中させます。 金管ファンファーレが舞台裏(?)で鳴るとホセが登場。 ホセ、煮え切らない男の部分はよく出ているのですけれど、声に押しが少ないせいか病的にも感じさせる虚弱さ。 対するカルメンは、そんな虚弱なホセといると底意地の悪さみたいなのが余計に際立ってしまいます。 もともとこんな演出を狙っているのかもしれませんね。 そしてクライマックス。 ホセがカルメンを刺すと舞台の照明が落ち、換わって赤い光に染まってジ・エンド。
最後の最後まで音楽がサウンド・ドラマのようでした。 ハラハラ・ドキドキしながら舞台を楽しませていただきました。
カルメンという魅惑的な主人公をドン・ホセが刺し殺すという、ある種ショッキングな物語によって有名なオペラになったのではなく、このビゼーの音楽が息づいていてこそ名曲として今日もあることを実感した公演でした。