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《頌啓会》ソレイユオーケストラ 第1回定期演奏会

1つの楽器としてオーケストラが響く戻る


《頌啓会》ソレイユオーケストラ 第1回定期演奏会
2007年4月7日(土) 14:00  京都府立長岡京記念文化会館

ワーグナー: 「ニュルンベルグのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47 (*)
ドヴォルザーク: 交響曲第9番ホ短調「新世界より」

独奏: 山本裕樹(*)

指揮: 井村誠貴


女性だけのオーケストラ・同志社女子大学音楽学科卒業生によるソレイユオーケストラの強靭でしなやか、そして曖昧さのないポテンシャルの高い演奏を楽しみました。

同じ大学の卒業生、しかも音楽学科というプロを目指す人を養成する学科の卒業生によるオーケストラ。 アマチュア・オーケストラに分類すると問題があるかもしれませんね。 技量、アンサンブルとして纏まった響きなど、そこいらのアマオケよりも格段に巧いオーケストラであることには違いありません。

そして、いわゆる同門の人々によって構成されていることの特長でしょう、弦楽器奏者の動きが見事なまでに揃い、管楽器のアンサンブルもまた均質に響きます。 また、各楽器の音色までもが綺麗に統一されていること。 誰かが突出して響くということもまるでなく、1つの楽器としてオーケストラが響いていました。 凄かったですね。

とくに素晴らしいと思ったのは、ニュルンベルグのマイスタージンガーの「第1幕への前奏曲」。 中盤でのトランペットやチューバの旋律など、全体の響きの上で歌い、それがまるでレリーフを見るかのように浮かび上がっていました。 もちろんその響きがとても美しいのに惹かれました。

もちろんこの他の曲も、いずれもキリッと引締まった表情を持った美しさ、これが基調になっていたように思います。
ただ、均質な演奏というのがちょっと気になりました。 もとより技量があるので、我武者羅になる必要はないのかもしれませんが、美しく綺麗に響くことが、湧き上がってくる情熱を殺いでしまった面もあったのではないでしょうか、そんなことも感じた演奏会でした。

もちろん井村さんの指揮は、いつもながらの熱くダイナミックでした。 新世界交響曲でも、大きく伸び上がったり、腰をゆすってダンスしたり・・・ 起伏・強弱をつけてドラマを要求するのですが、これらにも綺麗に揃ったアンサンブルできちっと応えていましたね。 しかもパワーのある強靭な響き、濁って響くことのない筋肉質の美しさを感じるのですが、でもね・・・やはりなにかスパイスがちょっと足りないようにも感じたのでした。

そして山本裕樹さんの独奏によるシベリウスのヴァイオリン協奏曲。 この演奏もまた、山本さんの独奏が艶やかで美しい響きで、実に魅力的でした。 ただし個人的には、もっと踏み込み、体力勝負的に進めた演奏が好きだということもあり、ちょっと線の細さとか、美しいのだけれどもやや一本調子にも感じた部分もありました。 上品で綺麗にまとまった巧さ・美しさをこの曲に求める向きにはよかったとは思いますけれど・・・

と、普段の感想文にはない書き方になっていますが、とにかくポテンシャルの高いオケということには間違いありません。 普通のアマオケではないですしね、こんなことも書いてしまいたくなるような技量を持ったオーケストラです。 これからもこの明確なカラーを持ち、しかも曲に対する共感をどのように表現してゆくのかに興味があります。 そして楽しみでもあります。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

朝からはっきりしない天気。 小雨がパラついたり止んだり。 昨年の結成記念演奏会に続くソレイユオーケストラの記念すべき第1回定期演奏会なのに、ちょっと不安な空模様ですね。 しかも当方もまた、体調がハッキリしなくて少々風邪気味です。 とにかく時間が迫ってきたので、奥さんをせかして慌てて家を出ました。

まず駅の反対側の公民館に行きます。 翌日は早朝より家族そろって外出するため、まずは期日前投票です。 始めての期日前投票に戸惑いつつも、これを済ませ、慌てて駅にとって返して目的の電車になんとか乗ることができました。 最寄駅より3回の乗り替えを経て、長岡天神に開演20分前に到着。 雨はまだ降っていません。 狭い歩道を急いでたどり、ホールに入りました。 いつもどおり、後ろのほうの席(26列25番)を確保し、ようやっと落着きました。 もっと余裕を持つべきですね(反省)。

定刻、左右より金管奏者の方を先頭に整列入場が始まります。 弦楽器の編成は、通常配置で 13-10-8-8-6 のようです。 ずらりと女性奏者の方が並んでいますが、正直なところ、全員女性でも全く違和感を感じません。 最近はどこのオケも女性奏者が多く、また主要なポストを女性で固めている団体もよく目にしますものね。 もっとも、女性=優しい響き、なんて単純に思えなくなっているのは、少々トウが立ってきた証拠かもしれません。 素直に聴きたいものですね。 さて全員が揃い、コンミスによる念入りなチューニングを終えて準備は完了。 靴音高らかに指揮者の井村さんが登場されました。 いよいよ始まります。

ニュルンベルグのマイスタージンガーの「第1幕への前奏曲」。 個人的には、今回の演奏会ではこの演奏が一番好きでした。 キリっと引き締まり、しなやかでかつ豊かな響きによる悠揚たるワーグナー。 そして何よりも美しい演奏が魅力的でした。 このオケの特長がよく生かされていたのではないでしょうか。 特に中盤でのトランペットやチューバの旋律など、全体の響きの上で、まるでレリーフを見るかのように浮かび上がって歌っていたのに惹かれました。 ほんと、美しい響き。 幸せな気分になれました。

井村さん、左右に大きく広げた腕ですくうようにして豊かな響きを導き出しました。 まろやかな響き、ちょっと遅めのテンポで悠々と進めてゆきます。 木管アンサンブル、ちょっと堅いかな、でも均整の採れたアンサンブルです。 そしてまた悠然とした弦楽器、しなるように進んでゆきます。 見ていると弓使いが隅々まで綺麗に揃っていますね。 さすが同門、同じメソッドで訓練されているからでしょうか。 井村さんの動きもまたいつもよりもしなやかじゃなかったでしょうか。
弦楽器の奏でる音楽の上をトランペットが旋律を歌います。 同じ音色で統一された響き、トランペットの旋律がまるでレリーフを見るかのように浮かんでいて、いやぁ〜巧かったですねぇ。 もちろん弦楽アンサンブル、そして木管楽器が絡む部分もまた軽やかな響きが綺麗に統一されていますし、ホルンも力を秘めたまろやかな響きで吹いていました。 そしてチューバが朗々と旋律を歌っていたのも印象的で、このように歌が聞こえてくるのが井村さん流でしょう。 素晴らしいですね。
シンバルが輝かしくも上質な響きで鳴り響き、深く弾力あるティムパニもまた気持ちよく届きます。 力を内包させた悠揚たるワーグナー、ぐいぐいと押すのではなく、しなやかで強靭な全奏として締めました。 とても美しい演奏でした。

第1ヴァイオリンが退場。 そして指揮台をやや上手寄りに斜めに置いて、ヴァイオリン独奏者のスペースを空けます。 この間に管楽器奏者の方も一部さがってシフトしたようですね。 位置が決まると、オケの奏者の方が入場。 編成は先と同じでしょう。 13-10-8-8-6 のようです。 チューニングを終えると、独奏者の山本裕樹さんを先頭に指揮者の井村さんが登場。 山本さん、ステージ中央で深々と礼をされました。 嬉しそうな表情が印象的でした。 山本さんのチューニングを終えたら準備完了。 さて始まります。

シベリウスのヴァイオリン協奏曲。 山本裕樹さんの独奏は、艶やかで美しい響きが実に魅力的でした。 ただし個人的には、もっと踏み込み、体力勝負的に進めた演奏が好きだということもあり、ちょっと線の細さとか、美しいのだけれどもやや一本調子にも感じた部分もありました。 上品で綺麗にまとまった巧さ・美しさをこの曲に求める向きにはよかったとは思いますけれど・・・

第1楽章、静かに響かせた高音弦のトレモロの中より山本さんの柔らかく艶やかな独奏が歌います。 やや音量を抑え気味でしょうか。 オケの響きも最初は柔らかでしたが、急速に引き締めて一撃。 タイトに決めました。 最初のカデンツァ、優しい表情でしたね。 オケの弦楽器は低弦が豊かに聞こえてビロードのような響きでサポート。 キリっとした木管楽器の響きを散りばめます。 2つめのカデンツァも美しい響きをゆったりと歌わせ、しっとりとして、余韻を感じさせるような感じかしら。 オーケストラも反応が良いせいか、締まった響きが返ってくるので、こじんまりとしたスケール感。 全体的に生真面目な感じもしますね。 さて、しだいに力を増し、集中力の高いピークを越えて明るい響き。 独奏には、後半もうちょっと踏み込んで欲しい感じを受けましたが、しとやかさを求めているのでしょうか(嗜好の違いでしょう)。 山本さん、艶やかさと丁寧さでもって終結部も歌い、オケもゆったっとりと盛り上げて、最後の和音を締めました。

第2楽章、暖かな響きのクラリネットに明るい表情のオーボエが絡んだ開始。 ふわっとした柔らかさです。 ヴァイオリンの独奏もまたそれにマッチして柔らかく響かせ、ゆっくりとした呼吸で歩みます。 チェロのピチカートもまたとてもまろやか。 暖かみを感じさせるオケに、独奏もまた甘く囁きかけるようです。 オケの弦楽アンサンブルはほんとよく揃ってて、きちんと制御されてますね。 オケに力が漲ってくると、ゆったりとした丁寧な盛り上がり。 ソロもオケも同じような響き、なだらかな感じです。 ここもいまいち高揚感が沸いてきませんね。 もっともこの楽章に高揚感を求めるのは間違っているかもしれません。 美しい響きを堪能すれば良い、といわれるとそうかもしれませんけれど。 そして静かにこの楽章を閉じました。

第3楽章、井村さんの軽いハナ息とともに中低弦が芯を持った響きを奏で、独奏がその上で艶やかに歌います。 ティムパニのリズム、いい感じですね。 オケが力を内包させた響きで畳み掛けますが、綺麗に揃っているので、ここままたちょっとこじんまりとした感じ。 独奏はひたすら軽やかに甘く歌っています。 このあたり、力まかせはイヤですが、体力勝負的な感じで前に踏み込んで欲しいところなのですけれど・・・やはり嗜好が違うみたいです。 金管も入って全奏での盛り上がり、中低弦がよく纏っています。 オケは反応良くキレも良くて見事。 独奏のハルモニクスが美しく囁きかけます。 このあとも畳み掛けるようなことなどなく、常に艶やかな響きで歌い続けます。 押して退き、伸び縮みさせる井村さんに、また反応の良いく応えるオケ。 こじんまりと纏った演奏は、最後、井村さんが高々と差し上げた右手で止めて終了。

う〜んん、とても美しい演奏でしたけれど、何度も書いたように、この曲に対する嗜好がちょっと違っていたようです。

20分間の休憩。 ロビーに出てちょっと気分転換をします。 外は小雨が降りだしたみたいですね。 トイレ休憩のあと席に戻って開演を待ちました。
定刻、やはり整列入場で全員が揃います。 13-10-8-8-6 の編成。 チューニングを行って準備完了し、井村さんが出てこられて、さあ、始まります。

ドヴォルザークの新世界交響曲。 この演奏もまた力強くかつ美しく演奏をすることが目的であれば、それは達成できていたと思います。 ただし耳に馴染んだ名曲なので、かえってハードルが高いと思うのですけれど、先日の紫苑交響楽団の演奏のようなフレッシュな感覚、また井村さんがかつて指揮された関西大学交響楽団の演奏で感じた溢れんばかりの情熱のようなもの。 曲・演奏に対する思い入れというか、共感・情熱のようなものが、技術の影に隠れていたのかもしれませんね。 アマとは違って我武者羅に演る必要はないと思いますが、それでも演奏終了後のメンバーよりこぼれた笑顔を見ていると、何かしらの思いもあったに違いないと思うのですけどね。 これを聞き手として上手くすくい取れていなかったのならごめんなさい。

第1楽章、艶やかな中音弦による響きが綺麗な開始です。 ホルンもまろやかな響きながら芯があってタイト。 木管アンサンブルも響きあって綺麗。 そして推進力を持って進みます。 ティムパニの弾力のある響き、キレが良くっていいですね。 そして井村さんがグィグィと引っ張り、起伏をつけ、踊るようにして歌わせます。 フルートの美しく歌うような旋律。 そしてまた盛り上がってゆきますが、ここでもティムパニの打音が胸に響きます。 響きの良さもさることながらリズミカルでのってますね。 弦楽器の分奏はしっかりとしていて、響きを合わせて素晴らしいのですが、全体として、もうちょっとうねるような感じが欲しいなぁって感じかしら。 上品に構えて、どこかすましているような感じもしました。 さて、金管の綺麗な響き、ティムパニが要所を締め、大きく抑揚をつけたあと、井村さんが厳しく締め上げたかのような終結としてこの楽章を終えました。

第2楽章、厳かな開始。 ちょっと慎重にすぎたかもしれませんが、丁寧に纏めてコールアングレに繋ぎます。 感情を載せたコールアングレのソロがホールに響きます。 巧いなぁ。 もちろん裏で吹く木管、弦楽器も綺麗に添えてます。 弦のアンサンブルでは第2ヴァイオリン、豊かに響かせているのが聴こえてきて、とてもいい感じ。 コールアングレが今度はちょっと静寂な感じを伴わせて吹き、そっと曲を進めます。 アンサンブル、ほんとよく纏っていますね。 深みを感じさせる音楽になっています。 それが伸びやかになり、盛り上げたのをふわっと止め、またコールアングレ。 弦楽アンサンブルが前プルトのみで奏でますが、これをふわっと止め、またふわっと柔らかく弾き始めます。 とても優しい感じですね。 この柔らかな響き、これがオケ全体に満ち、自然な流れからトロンボーンとチューバによる厳かな響き、弦・打楽器も加わってのなだらかな盛り上がり。 これを経て、低弦の響きでこの楽章を閉じました。

第3楽章、井村さんの軽いハナ息とともに締まった響きによる開始。 深く張りのあるティムパニがここでもいい感じです。 タイトなホルン、そして盛り上がってゆきますが少々抑え気味かな。 フルート、クラリネットなど木管を端正に歌わせてから、キリっと引き締めた音楽。 でもテンポはちょっと遅いめかしら、ゆったりと落着いて進みます。 井村さん、要所では小さく振って筋肉質の引き締まった音楽としますが、それをことさら強調することはなく端正な盛り上がりとして、またゆったりと進める感じ。 ティムパニ奏者の方、首でリズムを取りながら端正に叩いてカッコ良い。 その流れに乗せてまたもやタイトなホルン、落ちついた音色のトランペットなど、金管楽器が彩った終結部の盛り上がりを、井村さんがハナ息を交えて力強く止めました。

第4楽章、アタッカで入るかと思ったのですが、きちんとインターヴァルをとって集中力を高めて始まりました(個人的にはアタッカ希望でしたが)。 ハナ息とともに底力の筋肉質の響き、しかも余力をしっかりと持った音楽ですね。 ヴァイオリンが綺麗に響いています。 コントラバスも落着いてます。 音楽が走り出しても、まったくもって余裕綽綽。 バランスもいいですよ。 シンバルが静かに鳴り、クラリネットのまろやかな響き、チェロがまた柔らかな響きで入ってきます。 隅から隅まで行き届いた音楽。 綺麗にそろって、力はあるけど上品で美しい響きが魅力ですね。
井村さん、さらに抑揚をつけて歌わせますが、オケはこれにもぴったりと着いてきて巧いこと。 やはり力強くあっても美しい音楽。 これは素晴らしいことなんですが、何故か、いま一歩この演奏にのめり込むような感じにならないのが不思議。 上手に演奏しているのを聴かせてもらっている、そんなよそよそしさをちょっと感じました。 何なのでしょうね。 さてフィナーレも、井村さんがぐっと伸びあがって力を込め、また小さく振って抑え、そしてまたぐぃっと盛り上げるのも軽々と対応。 最後は締まった響きで歩み、トランペットのフェルマータによる終結は小さく丸くすくって潔く切り上げて、全曲を閉じました。

よく纏った巧い演奏だったので、かえって軽々と演奏されているようにも見えましたけれど、終演後には奏者の方の笑みも見え、それぞれに気合の入った演奏だったようです。 アマとは違いますからね、我武者羅さを見せていないだけなのかもしれません。 力強くかつ美しい新世界交響曲でした。 でも今一歩のめりこむことが出来なかったのは何なのでしょうね。 これを聞き手としての未熟さならごめんなさい。

とにかくポテンシャルの高いオケということには間違いありません。 こんなことも書いてしまいたくなるような技量を持ったオーケストラです。 これからもこの明確なカラーを持ち、しかも曲に対する共感をどのように表現してゆくのかに興味があります。 そして楽しみでもあります。