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カルロス・クライバーのベートーヴェン/交響曲第4番 |
ダイナミズム、生命力(戻る)
いきなり飛び込んできたカルロス・クライバーの訃報に驚きました。 ここ数年、引退状態となっていたけれど、どれほど多くの人々が復活を望み、また振ってくれることを願っていたでしょうか。 僕は一時期ちょっとした思い入れを持ちましたけど、それほど積極的なファンとはいえない存在でした。 でもそんな僕でも喪失感を感じずにはいられません。 とにかく一番最初に買ったカルロス・クライバーのベートーヴェン/交響曲第4番のレコードをかけてみることにしました。
これは1984年、クライバー来日記念盤として発売されたオルフェオの1,000円盤レコードです。 輸入盤に日本語解説を付けたのが日本フォノグラムから発売されていました。 このレコードが出た当時、まだ横浜の青葉台にあった会社の寮生活をしていました。 たぶんこの当時は残業を100時間以上こなしていたころではないかな(時には250時間の残業をしていた時も)。 だからクラシック音楽の事情には疎く、クライバーについての知識もほとんど持ち合わせず、来日にも気づいていなかったように思います。 よってこのレコードは、大阪に戻ってから、堂島ワルツ堂で売れ残っていたのを1985年頃に買いました。 買った理由は例のごとく、安い、ということですね。
しかし一聴し、血沸き肉踊るような感動を受けたことは間違いありません。 何度も聴き直して、凄いなぁ、って思い、当然のことながら、クライバーに興味を持つようになっていました。 当時の出来事として思い出すのは、クライバーが頑なにCDを出すことを拒否していたことですね。 世の中はCD化に大きく傾斜していました。 しかし、CDとLPでは生産コストが遥かに安いCDなのに、販売価格が高くまた演奏者への著作権料の支払い額が変わらないのはけしからん、というのがクライバーの言い分だったと記憶しています。 事の真偽はよくわかりませんけど、CD化に乗り遅れていた安田にとっては愉快なトピックスでした。 クライバーを心情的に好きになる要素でもありました。
またこのレコードについて補足すると、1982年のカール・ベーム追悼コンサートであることに加え、ミュンヘン郊外のプリンツレゲンテン劇場の修復のための資金を得るためのチャリティ盤だったようです。 クライバー、バイエルン国立管弦楽団、オルフェオ社がこの劇場の再建に協力していたため、コンセルトヘボウとの録音よりも先に発売されたようです(コンセルトヘボウとの演奏はレーザディスクで買いました。 これも素晴らしい演奏ですね)。 なおプリンツレゲンテン劇場は、1901年にバイロイト祝祭劇場をモデルにして建てられた劇場だそうで、1943年の空襲で一部被害を受けたものの戦後比較的早く復興、バイエルン歌劇場の演目もかけらていたそうです。 しかし老朽化のため1964年に閉鎖されたために再建活動があったようです。 ところでこの劇場は再建されたのでしょうか? 再建された劇場にクライバーがまた立っていたらどれほどの演奏をしたのかしら・・・と思いを馳せてしまいます。
ところで通常は演奏について書くところなのですけど、このレコードについては多くの評論家の方が推薦を出しておられます。 今さら僕が書く必要はないでしょう。 ということで、最後にこれもレコードの解説に書いてあることですけれど、カルロス・クライバーの言葉を引用させていただくことで冥福を祈りたいと思います。 素晴らしい音楽をありがとうございました。
私にとって、レコーディングにOKを出すことは通常恐怖である。 しかし、バイエルン国立管弦楽団の演奏は、私に自分自身のよろこびを持ってこのライヴ・レコーディングを承認させてくれた。 我々は、この耳に訴える演奏の「スナップショット」にいかなる化粧も施したくなかったし、どんな小さな修正も加えたくなかった。 いかにとるにたらない批評にでも反論する根拠を持っている。 生命力を耳から感じ取ることのできる人達にとって、これ程心をこめて、自信を持って、また神霊に導かれたように、かつ楽しげに、演奏を聞かせてくれるオーケストラはこのオーケストラをおいて他にないと断言できる。 本当にありがとう。
カルロス・クライバー(小石忠男:訳)For me, okeying a recording is normally a horror. But the Bavarian State Orchestra's Playing made the approval of this live recording my very own pleasure. We neither could nor wanted to use any cosmetics or make even the most minute corrections in this aural "snapshot" of a performance. For any petty critics we have an alibi: A benefit publication for the Prinzregententheater and alive performance. But for those who have an ear for vitality there are things here that no orchestra can play for you as eagerly and pertly or as inspired and delightfully as this orchestra on that day. Many thanks!
Carls Kleiber