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ハインツ・ワルベルクのロマンティック |
自然らしく装う巧さ(戻る)
ハインツ・ワルベルクさんが9月29日に亡くなられたとのニュースが入ってきました。 享年81歳。 今年もNHK交響楽団を指揮しておられただけに突然の訃報といった感じです。 追悼の意味をこめ、日本コンサートホール盤のブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を引っ張り出してきましたが、これがとても見晴らしが良いうえに質実として滋味深い演奏でした。
NHK交響楽団を160回以上にわたって指揮されたワルベルクさんですが、正直あまり(まったくといってよいほど)印象はありません。 日本コンサートホールのLPレコードを集めるようになって意識した指揮者という感じです。 あと、数年前に見たNHK教育TVのN響アワーの映像が強く印象に残っています。 確か悲愴交響曲終楽章のエンディング。 響きがまだ残ってワルベルグさんの手があがっているうちに起こったフライング拍手に対し、苦虫を噛み潰したような顔に一瞬のうちに変わっていました。
ただ、これまでに録音も含め、実際に音楽を聴いた経験のなかから深い印象を受けた記憶は、正直ありませんでした。 しかし今回、日本コンサートホール盤にてブルックナーのロマンティックを聴き返し、この指揮者が職人と呼ばれていたことがとてもよく分かりました。 派手さは無いけれど、とてもよく考えられた演奏でした。
全体として、旋律線をしっかりと描いて聴きやすいのが特徴的です。 そして内声部もたっぷりと歌わせています。 しかも常に中低弦のピチカートはリズミカルで息づいているので、音楽の流れの中に心臓の鼓動と同じようなものを感じます。 充実した音楽です。 もちろんブルックナーらしさである要所での金管ファンファーレも充分にパワフル。 ただし、きちんと抑制がかけられていて全体の枠の中からはみ出しません。 すっすっと聴き進んでしまう感じです。 この流れに簡単に乗ってしまうから印象が薄くなってしまうのかもしれません。
感情を吐露したような演奏とは正反対です。 しかしも、旋律線を描いているといっても、それを磨き上げて美観たっぷりな演奏とも全く違います。 あくまでも自然に曲を進めたナチュラルな美しさなんですけど、その実、自然らしく装っている巧さを感じさせる演奏です。 とても緻密にコントロールしているんだけども息苦しさはどこにも感じさせない、そんな巧さかな。なおオーケストラはウィーン国立交響楽団(THE VIENNA STATE SYMPHONY ORCHESTRA)の表記。 これは国立歌劇場管弦楽団でしょうか、それともフォルクスオパーのオケかな。 金管ファンファーレや弦も加わった全奏部分ではかなりの馬力を感じますけど、書いたとおり、意識して抑えている余裕は前者かもしれません。 確証はありませんけれど。
(と書いたら、日下部さんより情報を頂きました。 それによると、ウィーン・トーンキュスラー管弦楽団のレコーディングネームだそうです。 ワルベルクさんは1963年からこの団体の芸術監督をされていましたので、その頃の録音だろうとのことでした)。
爆演系の演奏を好まれる方には不向きかもしれません。 しかし、だからこそ職人指揮者と言われたワルベルクさん渾身のロマンティック。 素晴らしいロマンティックだと思います。 謹んでご冥福をお祈りいたします。蛇足ですがこのレコード。 日本コンサートホール盤にありがちな録音の甘さはありません。 ノイマンSX-74カッターヘッド使用と書かれていますとおり(実はあまり信用していませんけど)、クリアで艶も感じます。 もちろんバランス・奥行きとも申し分ありません。 未捕獲ですけど、ブルックナーの交響曲第8番の録音もあるそうで、これも含め、追悼盤としてCDリリースされることを望みたいと思います。