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レーグナーのヴォルフ・フェラーリ「管弦楽曲集」

芸術的な香りがする「マドンナの宝石」その他(戻る


中古レコード屋での楽しみは、学生時代に買いたくても買えなかった廉価盤を執念にも似た気持ちで捕獲することと、コンサートホール盤のように素敵なジャケットに惹かれて捕獲することにつきる。 そしてこのレコードは後者。 おまけに徳間のエテルナ盤はジャケットも素晴らしいし、音質も良く、そして何より旧東ドイツの誠実な演奏が堪能できるものが多い。 とにかく「買い」であり、数寄屋橋ハンターで300円で捕獲したものである。 そしてこのレコードは、ハインツ・レーグナーが、ともすると叙情に流されたムード音楽になりそうな「マドンナの宝石」などのヴォルフ・フェラーリの曲をとても丁寧にかつ音楽的・芸術的に聴かせてくれる素晴らしいレコードであった。
「マドンナの宝石」で有名なエルマーノ・ヴォルフ=フェラーリは、1876年にドイツ人の父、イタリア人の母の間にヴェネチアで生まれた。 主としてミュンヘンで喜歌劇の作曲家として活躍し1948年に没している。 このレコードに収められた曲はどの曲も、イタリア風の軽快で小粋な曲である。 肩の力を抜いて気楽に楽しむための曲ばかりなのだが、レーグナーの演奏はとても丁寧でかつ純音楽的な域にまで高めている。 これはレーグナーが指揮したビゼーの「アルルの女」の組曲の演奏もまた同じで、これではフランス的なものとドイツ的なものを同居させた素晴らしい演奏となっていたが、ここではイタリア的な明るさや流麗さとドイツ的な質実とした構成感を併せもった演奏となっている。 このため単なるムード音楽をはるかに超えて楽しめる。 明るさとほの暗さ、快活さと彫りの深さが見事に同居しているのが素晴らしい。 ここに聴いてゆくと、冒頭の「スザンナの秘密」序曲は、快活で弦楽器のキレが良い演奏である。 また管楽器も響きを小さく纏め、弦楽器との受け渡しも自然で巧い。 ぐっと惹きこまれる。 ラストでの管楽器のソロも誠実そのものである。 「マドンナの宝石」は悲劇であり「ナポリ人の踊り」もその結末を暗示するように弦楽器の層を厚くして暗い雰囲気を漂わせるが、キレが良いのでもたれるような部分がまるでない。 そして中間部での盛りあがりは情熱的でもある。 日本人が演奏するこの歌劇の第一間奏曲のレコードと聞き比べてみたが、こちらはまるで演歌か歌謡曲の伴奏のようで、お涙頂戴的なウェットな演奏なのでまいってしまった。 「4人の田舎者」間奏曲はピチカートのワルツに乗ったのびやかで流麗なメロディが印象的な曲。 ピチカートが演奏に彫りの深さを加えている。 「町の広場」前奏曲は、静かで甘くせつない感じの曲であるが、レガートがきちんとした低弦に支えられていることもあってほの暗さも漂っている。 続くリトルネロは柔らかな弦楽器と爽やかな管楽器による舞曲、つぎの間奏曲は速度や表情が複雑に変化するが、どこまでも誠実さが滲み出たような演奏で浮ついたところはない。 「せんさく好きな女たち」序曲は、陽気で快活な曲であるが所々にオケの音の厚みを効かせた響きを入れて軽く流さず歌いあげてゆく。 レコードB面の「弦楽のためのセレナード」は、オペラ以外の純器楽曲をあまり書かなかったヴォルフ=フェラーリの珍しい曲だそうだが、A面での喜歌劇の間奏曲などにも通じて流麗で抒情的、そして何より明快で屈託のない曲であった。
どの曲もちょっと間違うと昔のディズニーのアニメ映画の伴奏のようにもなりそうな曲たちであるが、これをレーグナーがじつに巧くさばいている。 何より誠実で生き生きとしているのがいい。 安心して音楽の楽しみに入り込める素晴らしいレコードであった。