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アンネローゼ・シュミットのモーツァルト・ピアノ協奏曲第20番 |
ベートーヴェンの好んだモーツァルト(戻る)
アンネローゼ・シュミットさんは、旧東ドイツ出身の女流ピアニストです。 1973年に初来日したとき、大阪フィルの定期演奏会にも出ていました。 僕はこのとき秋山和義指揮で彼女の演奏するこのモーツァルトの20番のピアノ協奏曲を聴いています。 そしてこれが僕のクラシック音楽会デビューでもありました。
アンネローゼ・シュミットさんについては、演奏会までは何も知らなかくて、大好きなモーツァルトの20番が演奏されるという期待だけで聴きに行きました。 初めての演奏会ということもあって、誠実な演奏をするブロンドの美人ピアニストという印象が強く残っただけで、細かな演奏についてはよく覚えていません。 でもそれ以来(確か翌年も来日したと記憶していますが)、美人を売り物にしない確かなピアニストとして、以来アンネローゼ・シュミットという名前は忘れ難い存在になりました。
さてこの演奏会から10年ほどたった頃、大阪・千日前のワルツ堂の中古レコード売り場で今回紹介するレコード盤を発見しました。 オイロディスク名盤特選1300シリーズ、と銘打たれた1枚です。 しかし当時は北海道の帯広で貧乏学生生活のまっただなか、このようなレコードが出ていたことは知りませんでした。 正直、千日前でアンネローゼ・シュミットさんに出会うとは思ってもいなかっただけに、大きな期待を持って聴いたことを覚えています。
そしてその大きな期待は全く裏切られませんでした。 ふつうこのような場合、何か違うなぁ、なんて思うことが往々にしてあるのですけど、またアンネローゼ・シュミットさんへの想いを一段と強める結果になりました。 そして今でも想い続けているピアニストなのですが、最近はまったく消息を耳にしていません。 東西ドイツ統合時点では音楽学校の校長をやっているような話でしたが、どうしたのでしょうか。
さて、このアンネローゼ・シュミットさんによるモーツァルトのピアノ協奏曲全集は日本コロムビアからも発売され、一部は廉価盤の常連みたくCD化もされていました。 輸入盤のベルリン・クラシックスからは音の良い全集もCD化されており比較的入手しやすいのではないでしょうか。
この20番の協奏曲に限らずアンネローゼ・シュミットさんのピアノの音は、本当に外見には似合わず煌びやかさを抑え、質実とした響きが特徴ですね。 女性ピアニストらしく繊細なんですが、感情に任せることはなく、タッチは明快、ちょっと突き放したところから曲を見ているような感じがします。 だから特にこのニ短調の20番は彼女にとてもよく合っているように思っています。
冒頭のピアノのフレーズから決然とした演奏です。 どこかそっけなさも感じるほどに外見上の華やかさをぐっと抑えて、モーツァルトの旋律の奥底の力強さを感じさせます。 どの部分をとっても、一般的に言われるようなモーツァルトらしく流して聴かせるようなことはなく、とても丹念に弾き込んでいます。 そしてこの曲を好んでカデンツァまで書いたベートーヴェンに通じるものを感じるのちょっと行き過ぎでしょうか。
またこの演奏をサポートしているクルト・マズア指揮ドレスデン・フィルもまた素晴らしいと思います。 マズアがLGOを振るときは、やや重過ぎる感があるのですが、ここではドレスデン・フィルの特質が勝っているのでしょうか、木管楽器は素朴な響きで美しく、弦楽器もシルキーなんですが、ちょっとくすんだような部分は良きドイツ音楽といった趣きですね。 とにかく聴き込むほどに味の出てくるモーツァルトの20番の協奏曲です。
2003/06/18 改版