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ニコレのJ.S.バッハのフルートソナタ(DENON) |
気品の高さと一体感(戻る)
ニコレによるJ.S.バッハのフルート・ソナタは3種類持っています。 なかでもアルヒーフに録音されたリヒターとの演奏は常にハイ・テンションを維持した規範的な名演奏だと思います。 しかし、それから10年たった1982年に日本コロムビアへPCM録音されたこの演奏もまた、円熟味を増したニコレと、共演者の共感に包まれた心洗われる素晴らしい演奏だと思います。 若い時には、前者での火花が飛ぶような演奏(特にリヒターがぐいぐいと押すドライブ感)を好んで聴いていましたけれど、このところはもっぱら後者、このレコードに魅せられるものを多く感じています。
アルヒーフ盤は真贋取り混ぜた全曲録音でしたが、DENON盤では新バッハ全集に収録されていた、いわゆる真作とされる4曲のソナタ(BWV1032,1030,1035,1034)と、無伴奏パルティータ(BWV1013)の5曲から成っています。 このなかでもBWV1032のイ長調のソナタは、第1楽章末尾の約46小節分の欠落をそのままの状態でいきなり終わらせていて、このあたりにニコレらしい真摯な態度が現れているようにも考えられます。
さてこの録音では、先ほども述べた円熟味として、気品の高さを演出しているように思いますがどうでしょうか。
クリスティアーネ・ジャコテや藤原真理と組んだことで、アルヒーフ盤よりもよりも自由にのびのびと演っているようにも感じますし、とくにジャコテとのBWV1032、1030のオブリガート・ハープシコードを伴ったソナタでは柔らかく絡みついて実に心地よい感じです。 けっしてハープシコードが脇役に甘んじているのではなく、対等な立場として絡んでいるのですが、そこにはリヒターのような厳格な表情はありません。 また藤原真理さんも加わったBWV1035のソナタでの華やいだ雰囲気。 またBWV1034のアンダンテでの安らかな響きには疲れた心を癒してくれるようです。 これらを一概に気品の高さ、といってしまうことには語弊があるかもしれませんが、誠実で一体感を感じさせる大バッハの世界を伸び伸びと演奏しながらも、気品を損なうことなく引き出しているようには感じられないでしょうか。室内楽は老後の楽しみとしてとっておこう、などと嘯いてマーラーなどの巨大な管弦楽曲ばかり聴いていた時期もありましたが、いよいよもってこのような室内楽にも耳を傾けられる年齢になってきたのかもしれませんね。 ま、とにかくバッハのフルートソナタは素晴らしい音楽には違いありません。