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ヨーゼフ・クリップスのシューベルト・グレート

恰幅のよい雄大なグレート(戻る


ヨーゼフ・クリップス。 1902年ウィーン生まれ、ウィーン音楽院で学び、ワインガルトナーのアシスタントとしてウィーン・フォルクスオパーとして指揮者デビューした生粋のウィーンの指揮者。 戦中はナチスから離れてウィーンを去ったが戦後はウィーンに戻って復興に寄与するも次第に活動の場をロンドンやアメリカに移していった。 ロンドン交響楽団とはベートーヴェンの交響曲全集を録音し、またこの他にも多数の録音があるはずだが、地味(滋味)で強烈な個性がなく伝統的な指揮者のためか顧みられることのない存在であるようだ。 しかし個人的にはファブリの25cmLP付き雑誌でベートーヴェンの「運命」という出会いから、非常に思い入れの深い指揮者である。 ということで、クリップスのレコードがあるとつい触手が動いて捕獲したのがこのレコードである。 国内初期盤の500円とは自分的には高価な買い物である。 しかしクリップスのグレートといえばオルフェオからライブ盤のCDが出ているようだが(未聴)、ロンドンレーベルにもあったとは知らなかった。 そしてこのレコード、やはり期待を裏切らず、雄大で恰幅のよくに素晴らしかった。 まさにグレートな演奏である。
第1楽章の冒頭こそちょっと霞みのむこうから聞こえるようなゆったりとした出だしだが、しかし次第に力を増してぐいぐいとシューベルトの歌の世界を展開してゆく。 緻密なショルティとはずいぶんと違って素朴で雄大な音楽である。 あとは一気呵成にクライマックスまで恰幅が良く、まさにグレートな音楽がとめどなく溢れて出てきた。 どの楽章もすべて雄大で自然な響きであって、まったく刺激的な音が無いのがクリップス流。 刺激がないといっても、芯が無いのではない。 なよなよした音楽ではなく、野太さをも感じる力強さを持った音楽である。 これがクリップスの世界。 ショルティは細かな音をモザイクのように組みあわせて音楽を構築していた。 クリップスも細部をけっして疎かにしているわけではなく、よく聴けばきちっと演奏させているが、個々の音ではなく総体として音を響かせている。 まさに共に響きあう交響楽として、オーケストラから音を出している。 とくに終楽章、ホルンが強奏して壮麗な響きを出している場面においても、この音が横に広がってゆくようで全体を包み込んでいる。 そして、他のフレーズや楽器とのつながりも実にスムーズであり、流れがまったく遮断されず、とうとうと音楽が流れて出てくる。 確かにショルティのデジタル録音ととは比べ物にならない古い録音ではあるのだが、これは録音技術の問題ではなく、音楽に対する取組姿勢の問題のような気がする。 ショルティのグレートには感心もしたが、クリップスのグレートは感嘆する巧さがある。 ちなみにこのレコード、輸入メタル原盤を使ったロンドンのffssで、ダイナミックスあふれる音で収録されている。