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セルのハーリ・ヤーノシュ、キージェ中尉

暖かさをも感じさせる円熟期のセル(戻る

昨年末にソニーの「音のカタログ」を聴いていましたが、そのなかでも特に印象に残ったのはセルの指揮によるハーリ・ヤーノシュ。 あのツィンバロンを伴った強靭な音楽が流れ出すと、もう有無を言わせぬ感じがし、空気までも一変するように思えます。 この厳しさや押しの強さがいかにもジョージ・セル、そんな感じのする演奏ですね(意味不明ですけどね)。 しかし全曲を聴いてみると、それ以上のものが感じられます。

とにかくジョージ・セルというと、精緻で厳しい・・・しかしどこか機械的で冷たい演奏をする、そんなイメージがありますよね。 またオーケストラをぎゅっと絞り込んで室内楽的に響かせていたりして(モーツァルトの40番の交響曲など)、中高校生の頃は巧い指揮者とは思うけれど好きではない指揮者の筆頭にいました。 もちろんアメリカのオケに対する偏見もありましたしね。

しかし今になって思うに、これらは多分に録音の質(狭いセヴァランス・ホールでの録音)や、レギュラー盤が買えずにFM放送で聴いていたというハンデが大きかったからだと思います。 あとEPICの輸入盤で買ったR.シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲル」「ドン・ファン」「死と変容」の印象も強かった。 これらのR.シュトラウスはクールな完璧主義者然とした演奏ですものね。 ちょっと近寄り難い雰囲気をも感じていました。

さて、ここに収録されている「ハーリ・ハーノシュ」「キージェ中尉」はともに死の前年(1969年)の録音です。 円熟期と言って良いのでしょうね。 いずれの曲もアイロニカルな内容の作品なんですが、そんな皮肉やユーモアを曲の中にとても品良く折り込んでいます。 そして何より鳴らすべきところではオケをダイナミックに響かせていますので聴き応えもありますし、また各フレーズもよく歌わせています。 とても精緻なアンサンブルですが、暖かさも感じさせる演奏です。 ほんと巧いもんです。 もちろんこれらはすべて綿密に計算されつくされた上での結果なのでしょうけれど、オケをこれだけ見事にドライヴしているのを聴くと気持ち良くなりますね。 ほんとセルって凄い指揮者だったんですね、と今更ながら気付かせられた演奏でした。