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ノイマンのドヴォルザーク「イギリス」 |
ノイマンの手腕の高さ(戻る)
DENONのクレスト1000シリーズが話題になっていますが、このところの忙しさのために満足にCD屋さんや中古レコード屋さんに足を運べなくなっています。 そんな悔しさもあって、先日のスィトナーの「春の交響曲」に引き続いて、同シリーズに取り上げられたノイマン/チェコ・フィルのドヴォルザークの交響曲第8番「イギリス」を聴きかえしてみました。 ノイマンがゲヴァントハウスを指揮していた時代に残したテンションが高く力強いマーラーの録音の数々は僕もまた大好きなのですけれど、このチェコ・フィルという繊細でデリケートな演奏が可能なオーケストラと組んで残された録音の数々もまた僕は素晴らしいと思っています。 特にこの「イギリス」は、手馴れたお国ものの演奏、などと一口で言ってしまうのがちょっと勿体ないような演奏ではないでしょうか。 久しぶりにノイマンの手腕の高さを強く感じました。
この「イギリス」と題されたドヴォルザークの交響曲第8番については、1982年のPCM録音によるレコードを長く愛聴していました。 繊細でかつ豊かに鳴るオーケストラの魅力から、一時期はオーディオ・チェック用としても使っていました。 なんせ録音が優秀でしたものね。 しかし今回クレスト1000にラインナップされたのはこちらではなく、1971年のアナログ録音による旧録音のほうです(クレスト1000では20ビットリマスタ処理済)。 こちらは10年ほど前、 1,300円盤CDシリーズの The Classic 1300 として出ていたものとして捕獲しましたが(アンチェル指揮によるスメタナ「売られた花嫁」序曲、ドヴォルザーク「謝肉祭」序曲とカプリング)、年に数回、なんとなくCD棚から取り出して聴きかえしているお気に入りの演奏のひとつでもあります。 今回、久しぶりに1982年録音のレコードとも聞き比べをしてみましたが、旧録音のほうが抑揚に富んでいるように感じました。 新録音のほうがより細部まで磨き抜かれているような印象を持ったのですが、ともに共通しているのは、豪快に盛り上がっても良さそうな場面でも必要以上に抑えて軽く流しているように思える点でしょうか。 ありがちなお国ものの濃さを見事に昇華させている点では、新録音が一歩抜きん出ているように思えますが、旧録音ではチェコフィル特有のヴィオラなど中音域の弦楽器の響きがより豊かで、艶のある金管楽器の響きなどもちょっとまったりとしていて、ともに安心して曲に身をゆだねることができる演奏でしょう。
ところでノイマンの件については、先日ゆらむぼさんのホームページでも取り上げられていますので繰り返しませんが、イメージ的な損をしているように僕も思っています。 個人的には、ターリッヒやアンチェルといった往年の指揮者の古い録音も良いのですけれど、すっきりとした現代的なノイマンの演奏もまた捨てがたい魅力を感じています。 けっして力みかえらず、淡々と流しているふうであったり、オケの自主性を発揮させたようなソロイスティックな場面ですらすべて緻密に計算されつくされた結果としてそうなっているように感じさせてしまうあたり、彼が官僚的とか神経質だといわれてしまうのかもしれませんが、これはノイマンのオーケストラ・コントロール力の高さゆえでしょう。 さらに一歩進めて考えてみると、ノイマンはターリッヒやアンチェルに比べると一段低くみられがちだけれど、彼の精緻なオーケストラ・コントロール力があったからこそチェコ・フィルが現代のオケとしての磨きがかけられたのではないか、ということに気付くのです。 特にゲヴァントハウスのオケがいまだにどこか中途半端な田舎オケの域を脱していないように思えることを併せると、ノイマンの手腕の高さもまた際立ってくるのではないでしょうか。
The Classics 1300 の1枚(現在クレスト1000にて発売中)